私と夫とバイク

ただのつぶやき -その3-

バイクは夫と私の共通の趣味だ。

夫はバイク屋に勤務していた経験があるので、バイクの種類や性能、修理の仕方に関する事までとにかく詳しい。

私達に “バイクに乗るのが好き“  という共通点がなかったら恋愛には発展しなかったもしれないと、今も時々考える。

夫に初めて会った日、お互いに無口なタイプの私達は特別に盛り上がるわけでもなかったのだが、私が所有している二輪ドラックスター(250CC)が実家の車庫で長い間放置されて動かなくなっていると知ると「俺が修理するよ。任せなさい。」という流れになり、初デートの運びとなったのだった。

当日、重そうな工具箱を抱えた夫がやって来たかと思うと、いとも簡単にバイクを直し、私たちはその後、少女マンガみたいにバイクでツーリングへ出掛けた。もちろん私が後ろのシートに乗って・・・

その話を友人にすると「やっぱり彼の体にギュッとつかまっていたのか?」と 興奮した顔で聞かれたのだが、

「いいや、右手は肩に添えさせてもらって、左手は後ろのシートを掴んでいたよ」と言うと

「なんだそれじゃあ暴走族じゃないか。やり直してこい」と怒られた。

とにもかくにも、私のバイクはその日から夫のメンテナンスによって大切に維持されている。

息子が生まれてから、私は何よりも息子を育てる使命に燃えていたし、移動手段として不便な上に、自分の命をスピードに晒すバイクに少しも乗る気が起きなかった。

しかし、バイクとは魔性の乗り物なのである。

夏になると、私のドラッグスターに我が物顔で跨って出かけて行く夫に、段々と腹が立つようになっていった。

私もまたバイクに乗りたい!風になりたい!

ある日、抑えきれなくなった気持ちをぶつけると、「乗れば良いじゃないか」と当たり前の返事がかえってきた。

しかしバイクとは、危険と隣り合わせの乗り物だ。私には大切な子どもがいる。何か起きたらどうするのだ。

私は「ブランクがあるから怖いんだ!あなたも車で付いて来て!」と懇願した。

ブランクあけのバイク復帰、目的地はちょっと遠めのスーパーにした。

バイク1台と車1台。会話のない、ただそれぞれに道を行くだけの奇妙なツーリング。

車の助手席に座っている息子が「ママ!ウインカー消して!」と何度も叫んでいるのが聞こえた。(これはバイク初心者あるある)

そんなに怖いなら乗るな!ガソリンの無駄!と自分自身を咎める声も聞こえた。

しかし、そうまでしてでも乗りたいのがバイクなのである。

 

毎年そんな風にバイクを楽しんでいたのだが、この夏はバイクを借りられる機会があり、久しぶりに本格的なツーリングに行けた。夫とバイクで並走するのは新婚旅行で沖縄を1周した時以来だった。

バイクに乗る前はいつも緊張で心臓がバクバクする。

私は夫に「絶対に置いていかないでね!絶対だよ!」と念を押し、同じセリフを2回言ったところで、もう一度言ってしまったら、フリだと思われるかなと思って口をつぐんだ。

走り出すと(無茶をしたら命を失うかもしれないんだ・・・)と不安に駆られたが、だんだんと緊張も溶けて軽快な気持ちになっていった。

バイクの良さはやはり自然をダイレクトに感じられるところだと思う。

山道を走れば山の匂いを、海岸沿いでは海の匂いをといった具合に、その場所の空気を肌で感じられる。

運転だけに集中するから余計な考えも働かないし、一種の瞑想状態に近いのかもしれない。

やっぱり最高!面白いーー!と心の中で叫ぶ。いや、実際「フォー―――!」と蚊の鳴くような声でつぶやいた。

最初の休憩ポイントで「ふくこ、バッキバキに笑ってたよ」と夫に指摘され驚いた。私は緊張のせいで体がガチガチだったし、きっと怖い顔で運転をしているだろうなと思っていたからだ。

自然に笑けてしまっている自分に気付けなくなるなんて。やっぱりバイクは魔性の乗り物だ。

「どおりで歯が乾くわけだい!」と言った私の顔はヌラヌラと輝いていただろう。

 

その夜の晩酌はバイクの話で盛り上がった。

「山道って急に空気が変わる境目がない?」と私が言えば、夫も「分かるー!」と激しい相槌をうつ。

そんなふうに話が盛り上がるは私達にとって珍しく、どんどんとお酒もすすむ。

その日私は、バイクのアクセルを回した時にマフラーから小さくパンっと弾けるような音がするのが気になっていた。

そのことを夫に相談すると「ホント、あいつは手がかかるから・・・」とため息を吐き「まあ、あの部品を交換して・・・あそこを磨けば・・・うんちくうんちく・・・タイヤもそろそろ変えなきゃ・・・」などとブツブツ言い始めた。

「ホント、あいつは・・・」と言った時点で気にはなっていたのだが、

「あいつはふくこと長年連れ添ってきた彼氏みたいなもんだもんな。」などと、本格的にバイクの擬人化まで始めた。

そのうえ「ふくこの彼氏を・・・ふくこが乗る為に夫のおれが修理して・・・なんか複雑な気分!」と言って「でもおれ・・・あいつが好きだ!!!」と心の内を吐露するまでに至った。

夫の顔がほんのり赤いのは、酔っぱらっているせいなのか、照れているせいなのか・・・

普段はこんなにしゃべる人ではないのは確かだ。ツーリングで放出されたアドレナリンがまだ残っているのかもしれない。

しかし、アドレナリンの残り火が揺らめいていたのは私も同じだった。

「ちょっと待ってよ・・・ドラッグスターのフォルムは腹筋が引き締まったスタイル抜群の女だろう!危険な匂いのする色黒の美女さ!」と反論する。

「だからあいつは彼氏じゃなくて、彼女だ!あいつはあの子だ!」

私が言うと、夫はそれ以上盛り上がるわけでもなく「へー」とだけ言った。

夫の方からバイクの擬人化を始めたくせに、女だと知って突然興味をなくしたのだろうか。

アドレナリンのせいなのか、酔い過ぎているせいなのか判断がつかなくなっていた。これ以上何を言っても、すべってしまうことだけは分かった。

そして、気が向いた時だけに調子良く乗ってくる私より、いつもあれこれ気にかけて手入れしてくれる夫の方があの子も好きなんじゃないかな?とぼんやり思った。

私と夫とバイクの三角関係だ。

最後に「勝手に乗るなよ。」とだけ忠告しておいた。

 

おしまい

 

お読みいただきありがとうございます!

他のつぶやき

中年期の扉が開いた気がする




同じカテゴリの記事

アプリなら通知ですぐ読める!

NAPBIZブログ

NAPBIZブログ